かつては「水主火従」の時代と言われ、発電の主役であった水力発電ですが、戦後の経済発展の頃からは逆転して「火主水従」の時代となりました。
ただ、最近は地球環境への関心の高まりと共に、二酸化炭素を排出しないクリーンで再生可能なエネルギーである点から、再び関心が寄せられています。
こちらのページでは、そんな水力発電の仕組みからメリットデメリット、そして世界の水力発電事情まで、幅広いコンテンツを公開しています。
発電の仕組み
(出典:東北電力)
水を高い所から低いところに流して、その水の流れる力で発電用の水車を回転させるという仕組みです。落差さえあれば発電することができるため、多くの水力発電所は山間部に設置されています。
水力発電では水という枯渇の恐れがない自然のエネルギーを使っていて、さらに火力発電のように燃料を必要としないため、二酸化炭素や有害なガスを排出しません。
メリット | デメリット |
---|---|
二酸化炭素を排出しない | ダムを必要とする場合は膨大な建設費がかかる |
再生可能エネルギーである | ダムを必要とする場合は建設時に自然破壊が発生する |
水資源が豊富な日本に向いている | 既に数多くのダムがあり、ダムの新規建設が困難 |
小規模のものは大消費地にも設置できる | ダムが決壊すると周辺地域に多大な被害を及ぼす可能性がある |
揚水式発電所を巨大な蓄電池と考えることができる | 電力需要に応じた発電量のコントロールが困難 |
もっと詳しく:水力発電のメリット・長所 | もっと詳しく:水力発電のデメリット・問題点・危険性 |
水力発電の種類(発電方式による分類)
水力発電には様々な種類のものがありますが、2通りの分類の仕方があります。まずは「発電の方式」によって分類するパターンをご紹介します。
流れ込み式(自流式)
川の流れをそのまま利用する方法です。
天候や季節によって流れる水の量が変化するため、発電量をコントロールすることは難しいです。ただ、この方式の発電所の建設にはコストがそれほどかからないというメリットがあります。
調整池式
川の流れをせき止めた規模の小さいダムに水を貯水することで水量を調節する方法です。
電力需要の小さい夜間には出力を抑えて、需要の大きい日中には出力を高めるなどといった具合に、出力をコントロールすることができます。
貯水池式
調整池式よりも大きなダムを使う方法です。
川を流れる水の量は季節的に大きく変化しますので、大きなダムに水を溜めておいて、その水を利用して発電します。電力需要の小さい春秋に水を溜めて、需要の大きい夏冬に水を流して発電するというケースが多いです。
揚水式
発電所の上部と下部にダムをつくって、上下のダムの水を揚げ下げして繰り返し使用する発電方法です。
日中の電力需要が大きい時間帯には、上部のダムから下部のダムへ水を流して発電を行い、需要の小さい夜間に下部のダムから上部のダムへ水を汲み上げて、再び日中の発電に備えます。
水力発電の種類(構造物による分類)
前述の通り、水力発電を分類する方法は2パターンあります。こちらの項目では「水力発電の構造物」によって分類した場合についてをご紹介します。
水路式
川の上流から水路によって水を発電所まで導いて発電する方法です。この方式は、前述の流れ込み式(自流式)と組み合わされるケースがほとんどです。
ダム式
ダムを作って人工湖を作り、そこで生ずる落差を利用して発電します。ダムの水位の変化によって落差変動が大きくなるのも特徴です。貯水池式・調整池式と組み合わされるケースが多いです。
ダム水路式
前述のダム式と水路式を組み合わせた発電方式です。ダムと水路により落差をつくります。貯水池式・調整池式・揚水式と組み合わされるケースが多いです。
日本の水力発電と世界の水力発電
日本と世界の水力発電に関する項目です。「世界と比較して日本の水力発電はどのような点が異なっているのか」「水力発電の世界シェアはどの程度なのか」など、簡単にまとめてみました。
日本の水力発電
明治時代から活用されている歴史の長い水力発電は、1960年代の高度経済成長期に入るまで、日本における発電の主流でした。
今でこそ火力発電が水力発電を圧倒するほどのシェアを誇っていますが、当時は「水主火従」と言われ、水力発電がメインでした。当時作られた仙台の三居沢発電所や京都の蹴上発電所などは、今でも水力発電を行っています。
大規模な水力発電に適した場所ではほとんど建設が完了しているため、これからは中小規模の水力発電所の建設が中心になります。
火力発電や原子力発電のように莫大な電力を生み出すことはできませんが、再生可能エネルギーかつクリーンエネルギーである水力は、これからも一定以上の割合で活用され続けて行くであろうことは間違いありません。
世界の水力発電
世界で最初に水力発電が行われたのは1878年です。イギリスで行われました。世界的に見ても日本と流れは同じで最初は水力発電が中心でしたが、その後は火力発電に主役の座を奪われるという形です。
現在では世界の総発電量の約15%が水力発電によって生み出されています。
国別に見ていくと水力発電の割合が比較的高いのは、中国・フランス・イタリアの3ヶ国です。それぞれ国内総発電量の10%前後を占めています。
日本では約7%ですが日本も世界的に見ると高い水準にあります。大国アメリカは約6%ほどです。逆に極めて割合が低いのはイギリスと韓国です。ともに1%ほどです。
日本では同じクリーンエネルギーである太陽光発電や風力発電や地熱発電などに注目が集まっていますが、世界的には発展途上国を中心に大量の未開発水力地点があるといわれていて、急ピッチで水力発電所の建設を進めている国も多くなっています。
これから発展途上国の国々が経済発展を遂げていく過程で、今よりもはるかに多くの電気需要が発生するのは間違いありませんので、それらの国々では水力発電による電力供給の割合も増加するのではないかと思います。
また、そこで作った電気を蓄えることができる大型の蓄電池の開発も重要となるでしょう。
賛成派と反対派
かつてはダム建設に反対する声もあり、水力発電にも賛成派と反対派の対立がありましたが、現在の日本では今以上にダムを造るのは難しいため(既に適切な場所に作り終えている)、昔ほど反対派の声は聞こえなくなりました。
日本においては今後水力発電所が急増するということは考えにくいですが、世界的にはまだまだ発電所の設置に適した場所が残っているので、普及が進んでいくのでないでしょうか。
賛成の声・反対の声は以下の各ページからお読み頂けます。
日本の水力発電所一覧
日本にある水力発電所の中でも、大規模なダムを使って揚水発電を行っているところをまとめてご紹介します。想像していた以上に数多くのダムがあり、驚かれる方もいるかもしれません。
北海道
広大な土地を持つ北海道ですから、揚水発電所も結構あるような印象を受けますが、実は現在のところ3つだけとなっています。なお、一番下の京極発電所が最も新しく、2014年に運転を開始しました。
発電所の名称 | 利用しているダム | 所在地 | 運営企業 |
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新冠発電所 | 新冠ダム・下新冠ダム | 北海道 | 北海道電力 |
高見発電所 | 高見ダム・静内ダム | 北海道 | 北海道電力 |
京極発電所 | 京極ダム | 北海道 | 北海道電力 |
東北地方
東北地方も北海道と同様に山が多いため、発電所の数も多いようなイメージがありますが、実は福島県にしか設置されていません。ご覧の通り、片方は電力会社が運営していて、もう一方は民間企業(電源開発)が運営しています。
発電所の名称 | 利用しているダム | 所在地 | 運営企業 |
---|---|---|---|
第二沼沢発電所 | 沼沢湖・宮下ダム | 福島県 | 東北電力 |
下郷発電所 | 大内ダム・大川ダム | 福島県 | 電源開発 |
関東地方
前述の北海道や東北地方と比べると施設の数は少ないと思われがちですが、実は群馬県と栃木県にそれぞれ3つずつ設置されています。また、神奈川県にも相模川を利用した揚水発電所が1つあります。
発電所の名称 | 利用しているダム | 所在地 | 運営企業 |
---|---|---|---|
玉原発電所 | 玉原ダム・藤原ダム | 群馬県 | 東京電力 |
矢木沢発電所 | 矢木沢ダム・須田貝ダム | 群馬県 | 東京電力 |
神流川発電所 | 南相木ダム・上野ダム | 群馬県 | 東京電力 |
今市発電所 | 栗山ダム・今市ダム | 栃木県 | 東京電力 |
塩原発電所 | 八汐ダム・蛇尾川ダム | 栃木県 | 東京電力 |
沼原発電所 | 沼原ダム・深山ダム | 栃木県 | 電源開発 |
城山発電所 | 本沢ダム・城山ダム | 神奈川県 | 神奈川県 |
中部地方
最も山や川が多いエリア、そして広大な面積を持つエリアということもあり、日本で最も多くの揚水発電所が中部地方に集中しています。東京電力・北陸電力・東北電力・関西電力など複数の電力会社の発電所があるのも特徴的です。
発電所の名称 | 利用しているダム | 所在地 | 運営企業 |
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三尾発電所 | 牧尾ダム・木曽ダム | 長野県 | 関西電力 |
安曇発電所 | 奈川渡ダム・水殿ダム | 長野県 | 東京電力 |
水殿発電所 | 水殿ダム・稲核ダム | 長野県 | 東京電力 |
新高瀬川発電所 | 高瀬ダム・七倉ダム | 長野県 | 東京電力 |
池尻川発電所 | 野尻湖・池尻川調整池 | 長野県 | 東北電力 |
高根第一発電所 | 高根第一ダム・高根第二ダム | 岐阜県 | 中部電力 |
馬瀬川第一発電所 | 岩屋ダム・馬瀬川第二ダム | 岐阜県 | 中部電力 |
奥美濃発電所 | 川浦ダム・上大須ダム | 岐阜県 | 中部電力 |
小口川第三発電所 | 祐延ダム・真立ダム | 富山県 | 北陸電力 |
奥清津第二発電所 | カッサダム・二居ダム | 新潟県 | 電源開発 |
奥清津発電所 | カッサダム・二居ダム | 新潟県 | 電源開発 |
黒又川第二発電所 | 黒又川第一ダム・黒又川第二ダム | 新潟県 | 電源開発 |
長野発電所 | 九頭竜ダム・鷲ダム | 福井県 | 電源開発 |
葛野川発電所 | 上日川ダム・葛野川ダム | 山梨県 | 東京電力 |
畑薙第一発電所 | 畑薙第一ダム・畑薙第二ダム | 静岡県 | 中部電力 |
奥矢作第一発電所 | 黒田ダム・富永ダム | 愛知県 | 中部電力 |
奥矢作第二発電所 | 富永ダム・矢作ダム | 愛知県 | 中部電力 |
新豊根発電所 | 新豊根ダム・佐久間ダム | 愛知県 | 電源開発 |
近畿地方
近畿地方には兵庫県に2つ、奈良県に2つ、そして京都府に1つ施設が設置されています。大河内発電所は1990年代に入ってから運用され始めましたが、それ以外の4つは60年代~80年代に運用が開始された歴史の長い発電所です。
発電所の名称 | 利用しているダム | 所在地 | 運営企業 |
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喜撰山発電所 | 喜撰山ダム・天ヶ瀬ダム | 京都府 | 関西電力 |
奥多々良木発電所 | 黒川ダム・多々良木ダム | 兵庫県 | 関西電力 |
大河内発電所 | 太田ダム・長谷ダム | 兵庫県 | 関西電力 |
奥吉野発電所 | 瀬戸ダム・旭ダム | 奈良県 | 関西電力 |
池原発電所 | 池原ダム・七色ダム | 奈良県 | 電源開発 |
中国・四国地方
中国地方に3つ、四国地方に4つ施設が設置されています。高知県の3つの施設は全て吉野川を活用しています。中でも大森川発電所は最初に運営されたのがなんと1959年で、既に60年以上の稼働実績を誇っています。
発電所の名称 | 利用しているダム | 所在地 | 運営企業 |
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新成羽川発電所 | 新成羽川ダム・田原ダム | 岡山県 | 中国電力 |
南原発電所 | 明神ダム・南原ダム | 広島県 | 中国電力 |
俣野川発電所 | 土用ダム・俣野川ダム | 鳥取県 | 中国電力 |
大森川発電所 | 大森川ダム・長沢ダム | 高知県 | 四国電力 |
穴内川発電所 | 穴内川ダム・繁藤ダム | 高知県 | 四国電力 |
本川発電所 | 稲村ダム・大橋ダム | 高知県 | 四国電力 |
蔭平発電所 | 小見野々ダム・長安口ダム | 徳島県 | 四国電力 |
九州地方
九州地方には4つの施設があり、その全てが九州電力によって運営されています。沖縄にも1つ施設があり、こちらは民間企業の電源開発によって運営されています。沖縄やんばる海水揚水発電所は、世界初の「海水揚水発電所」です。
発電所の名称 | 利用しているダム | 所在地 | 運営企業 |
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諸塚発電所 | 諸塚ダム・山須原ダム | 宮崎県 | 九州電力 |
小丸川発電所 | 大瀬内ダム・かなすみダム・石河内ダム | 宮崎県 | 九州電力 |
大平発電所 | 内谷ダム・油谷ダム | 熊本県 | 九州電力 |
天山発電所 | 天山ダム・厳木ダム | 佐賀県 | 九州電力 |
沖縄やんばる海水揚水発電所 | 太平洋 | 沖縄県 | 電源開発 |